2014年1月29日鶴見にある東洋化成の工場にてカッティング立会い。これでレコーディングから続く私のサウンドディレクターの仕事は終わる。
先日、六本木のサンライズスタジオにて高音質のデジタルオーディオデータをアナログテープに移す作業を行った。創業41年と長く営業しているレコーディングスタジオではあるが最近はデジタルレコーディングがやはり主流で、アナログレコーダーを5~6年振りに扱うらしくテープを眺めながら感慨深そうにしていた。
「今日はライブの感じで録っていきたいと思います。手始めに4曲続けて行きたいのですが、その前に音のバランスを調整したいので… A
Train、やってみて頂けますか?」と、コントロール・ルームのサウンド・ディレクターが声をかけ、いよいよ レコーディングが始まった。
ここは横浜みなとみらい地区のランドマーク・プラザにある「LANDMARK
STUDIO」、ショッピング・モールの中の隠れ里だ。スタジオの中はボーカル・ピアノ・ドラムス・ベースとパートごとのブースに分かれていて、正面のモニターでしか全員の姿を見ることは出来ない。ミュージシャンはヘッドフォンを通じてコントロール・ルームでミキシングされた全体音を聞きながら演奏する。
ウォーミングアップをかねて、少し流し気味に「Take the ”A" Train」を終えると、ミュージシャンがプレイバックを聞きにコントロール・ルームに入ってくる。モニターの音を聞きながら「ベースが出すぎかなあ、ドラムのレガートをもう少し出して」「バックを少し抑えてボーカルを前に出して」… 出てきた注文を聞きながらレコーディング・エンジニアがバランス調整をして、聞き直す。何回かそんなやり取りを繰り返して、「じゃあ、本番いきましょう」と ディレクターが促し、ミュージシャンはブースへと帰っていく。
「予定の曲順をかえてA Trainから始めて4曲続けていきます」とディレクターが声をかける。
…A Trainから始める? これは単なる偶然だろうか?
横浜発のアナログレコードレーベルCHIGUSA Recordsの立ち上げメンバーで一番レコードから縁の遠い人のが私・鈴木光です。他のメンバーはそれぞれ音楽制作やジャズに造詣が深く、アマチュアジャズバンドでサックスを吹いてはいるものの、レコードやプレーヤーを持っていない、かけることが出来ないのは私だけです。そんなわけで、とにかく「レコードを作るならレコードのことを知らねば!」と、「レコード盤制作の現場」に行ってきました。素人でもワクワクしたレコード制作の現場をご紹介したいと思います。
なんとアナログレコードを作れる会社はいまや日本どころかアジアで唯一となり、しかも、その会社は、ちぐさと近い横浜市鶴見区にある「東洋化成」という会社なのですから、驚きです。「東洋化成」は、ローカル色漂うJR鶴見線の鶴見小野駅から歩いて10分くらいの京浜工業地帯の中にあります。今回の見学は担当の方に事前にご相談して、拝見させて頂きました。
先に言ってしまうと、この「東洋化成」は400万枚を記録した大ヒット曲「およげ!たいやきくん」(1975年発売)を生み出した工場なのです。(工場には、記録を祝ったキャニオンレコードからの記念の盤が飾ってありました)
サウンドディレクターを務める江口です。私は過去様々なジャンルのレコーディング現場のディレクターを経験してきました。私が経験してきたレコーディング手法は、現在の主流である音の波形をデジタル変換してPCへ波形データとして取り込みソフトウェアで処理をするデジタルレコーディングという手法です。音楽制作現場がデジタルレコーディングを導入する前の、テープやレコード等がレコーディングに用いられた時代の話は先輩方からお話を聞く機会はありましたが、私自身レコード制作は CHIGUSA Recordsのプロジェクトが初めての経験になります。
東芝EMIでディレクターをされていた城水さんと共にCHIGUSA Records録音班としてレコーディング手法からマスター(原盤の音源)制作までの過程を約3ヶ月間に渡り入念に計画をしてきました。ここでひとつ録音班の秘話をご紹介します。
まず基本的な考えですが、アナログは連続のデータ、デジタルは不連続のデータという違いがあります。アナログはデジタルより微妙なニュアンスや繊細な表現が出来ますが、デジタルはバイナリ(O/1の二進数)のデータ形式である為、情報量が少なくてすみ、機器の小型化や通信の分野、データ処理のしやすさなどを理由に急速にデジタルが普及しました。